トヨタの東北戦略

トヨタ自動車の車体生産子会社、セントラル自動車(神奈川県相模原市)は昨年暮れ、宮城県大衡村で新本社・工場の建設に着手し、「東北を国内3カ所目の生産拠点とする」(トヨタ)プロジェクトがことし本格化する。一方、半導体製造装置大手の東京エレクトロン(東京)も、着工こそ延期するものの、同県大和町への新工場建設計画を推し進める。自動車と電子・電気機械の国内二大産業が連携し、集積すれば、東北の産業構造は重層的になり、たくましさも増す。トヨタ東京エレクトロンの両社首脳に戦略の展望を聞くとともに、東北で融合する二大産業の現場を報告する。

◎調達・研究開発が魅力/トヨタ・内山田竹志副社長

 トヨタ自動車は、東北を国内第3の生産拠点と位置付けている。内山田竹志副社長(生産担当)は、自動車産業が置かれた環境について「世界的な販売不振で非常に厳しい」としながらも「岩手から宮城にかけての100キロ圏を一つの経済圏ととらえて拠点化を進める」と強調。「東北戦略」については、環境対応・低コスト技術の開発のため、エレクトロニクスや金属材料などの分野で、地元メーカーはじめ産学との連携に力を入れると意欲を示した。

 ―自動車産業を取り巻く状況は。
 「各社がここ数年、生産体制を拡大したため、工場の稼働率が低く、大変厳しい。金融危機を発端に実体経済が沈んだが、それが新興国を含め世界中で同時に起きてしまった」

 ―展望は。
 「『回復はいつか』が分からないのが問題。しかし経済や人口が伸びる限り、販売台数も間違いなく伸びる。次の成長のために技術開発、組織づくり、個人の教育などの体制をもう一度、整え直す大切な機会にしたい」

<経済圏は約100キロ>
 ―環境や低価格への対応など、未来に向けてどう取り組む。
 「各社がしのぎを削る環境対応と安全性で他社に負けない技術を開発し、低コストで提供できるかが次の成長の鍵を握る。昨年発売した超小型車『iQ』も大きなテストの一つ。小さくて燃費が良く、安全で快適。そんな魅力ある車をどう造れるか、力を注ぐ」

 ―東北をどう見る。
 「自動車産業はすそ野が広く、大きな拠点にするには現地調達率を上げなければならない。東北は地場産業が発達しており、2次、3次の部品メーカーと協力し合える点で魅力が大きい」
 「中長期的には就労人口は足りなくなる。トヨタは岩手から宮城にかけての100キロ圏を一つの経済圏ととらえて拠点化を進める。進出メーカーには集中しないようにとお願いしている」

<小型車が時流に>
 ―景気悪化が東北進出計画に与える影響は。
 「仮に調整があっても、東北が一大生産拠点になっていくのは間違いない。関東自動車工業岩手工場(金ケ崎町)や、宮城県に移転するセントラル自動車が造る小型車は時流に合っており、少し景気が回復すれば真っ先に売れ出す。市場に素早く対応しなければならない」

 ―東北は電子部品・デバイス関連の企業集積があり、電子化が進む自動車産業に貢献できる。
 「今まで付き合いのなかったメーカーとも互いの強みを生かすため連携する時代が来る。東北での連携はエレクトロニクスや金属材料、精密機械などいろいろ可能性がある。特に魅力的なのが産学連携。既に東北の大学と共同研究を行っているが、生産拠点が東北にできることで一層活発化すると思う」

エコカー搭載に商機/東京エレクトロン・佐藤潔社長

 宮城県大和町に新工場建設を計画する半導体製造装置で世界2位の東京エレクトロン半導体産業は市況が冷え込んでいるが、佐藤潔社長は「ハイブリッド車や電気自動車が普及すれば半導体の需要も大きく伸びる」と展望、東北でも集積が進もうとしている自動車産業との連携に期待を寄せる。新工場について「世界でも最高効率の工場にしたい」と語り、世界をリードする拠点にしたい考えを強調する。

 ―世界的な景気悪化で半導体産業も不振だ。
 「市況は非常に悪い。日本だけでなく米国、韓国、台湾と世界中の半導体メーカーが減産を進めている。新規設備投資が減りダメージは大きい」

 ―半導体市況が底を打つのはいつに。
 「最短で2009年後半という見方もあれば、2、3年後との見通しもあってさまざま。市況が読み切れない状況だ。ただ、中長期的には新興国市場が伸びて、まだまだ拡大する」

 ―回復のけん引役として期待する製品は。
 「新しい製品では多機能端末スマートフォン、モバイルパソコンに期待している。それに続くのが電装化が進む自動車。ハイブリッド車や電気自動車が普及すれば、半導体の需要も大きく伸びる」

<優秀な人材集う>
 ―宮城の新工場は09年4月に予定した着工を延期した。再開のめどは。
 「来春には国内外の半導体メーカーの設備投資計画がでそろう。市況回復の兆しが見えたら、すぐに再開したい。仙台は東北だけでなく首都圏の人にも人気の高い街。東北大もあり、開発拠点として優秀な人材が集まると判断した。半導体装置は開発を続けないと負けてしまう」

 ―新工場の青写真は。
 「エレクトロングループとして山梨、九州と並ぶ一大開発・生産拠点になる。時間、エネルギーなど最高効率の世界一の工場にする。製品価格でも海外に負けるわけにはいかない」

 ―地元企業とはどう連携する。
 「部品加工、組み立てなど期待は大きい。優れた技術で高品質、低コストが実現できる企業と仕事をしたい。新しい技術も提案してほしい」

<大学が橋渡し役>
 ―東北は今後、自動車産業の集積が進む見通しで、産業の連携も期待されている。
 「自動車の電装化が進めば半導体が一層必要になる。半導体メーカーが自動車会社とデバイスの共同開発をすれば、われわれが参画するチャンスが生まれる。車載用は大量生産と低価格が要求される。そこで新たな製造装置が必要になる」

 ―東北での抱負は。
 「東北大とは長年、新製品開発のための技術で共同研究を行っている。トヨタも東北大と研究実績があり、もし両者が車載用デバイスの共同研究をすることになれば、製造装置もかかわりが出てくる。自動車と電子の連携に、大学が橋渡し役になるかもしれない」 河北新報より