ビール戦争キリン「ストロングセブン&一番搾り生ビールキリン」が勝てば8年ぶりの首位奪還となる。

キリンビールが3月に発売する新商品が業界に波紋を投げかけている。

 昨年3566万ケースを販売し、キリンブランドのなかで最も人気がある基幹商品「一番搾り」(正式名称は「キリン一番搾り生ビール」)を大リニューアル。これまで使っていたコーンやコメといった副原料の使用を取りやめ、麦芽とホップのみでの製造に切り替える。つまり、仕様を従来のレギュラービールから、麦芽100%のプレミアムビールに変更するというわけだ。

 しかも、価格は従来のまま据え置く。つまり仕様はプレミアム、価格はレギュラーというわけだ。1990年の一番搾りの発売時、レギュラー価格にするか、プレミアム価格にするかで社内の議論が続いたのは有名な話。今回はさらに仕様をあげるのだから、まさしく実質的なプレミアムビールの安売りとなる。

 プレミアムビールといえば、サッポロビールの「エビス」とサントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」がよく知られている。どちらもレギュラービールより、大瓶一本当たりで20円前後高いが、ともに年間1000万ケース以上を売り上げる人気商品だ。

 しかも、プレミアム戦争と呼ばれた昨年のサントリーとサッポロの戦いはサントリーの“安売り”に軍配が上がり、エビスはプレミアムモルツに逆転されてしまった。サントリーは、大手ビールメーカーが2〜4月にビール系飲料の一斉値上げに踏み切ったのに対し、8月まで缶入り商品の値段を据え置き、史上初のシェア3位の座を獲得した。その原動力となった商品がプレミアムモルツと、第三のビール「金麦」だ。

 ところが、そのプレミアムビール市場に、キリンがレギュラー価格で殴り込んでくるのだから、サントリーもサッポロもたまったものではない。キリンは一番搾りをあくまでレギュラービールとして売るが、CMでは麦芽100%使用を前面に打ち出す予定で、両社がシェアを食われるのは火を見るより明らか。今年3月、第2次プレミアムビール戦争の火蓋が切って落とされる。 

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 ◆ビール業界の覇権争いが過熱している。1〜9月までの第3四半期を終えた時点で、首位アサヒビールのシェアが37.5%、2位のキリンビールが37.0%、わずか0.5ポイント差のデッドヒートだ。

 もっとも、昨年の第3四半期にはキリンが0.2ポイント差まで詰め寄ったにも関わらず、アサヒが逃げ切った。第4四半期は年末、つまりビール系飲料の最需要期であり、割安な発泡酒、新ジャンル(第3のビール)よりも価格の高いビールが売れる傾向が強い。ビール市場で半分のシェアを握る「スーパードライ」を擁するアサヒが今年も有利と見られていた。

 ところが、ここに来て雲行きが怪しくなっている。キリンが10月22日に発売した新商品「キリン ストロングセブン」が発売から16日間で販売量100万ケースを超える予想外のヒットとなっているからだ。

 このストロングセブン、名前の通りアルコール度数が「7度」で、一般のビール系飲料(5度前後)より高い。しかも、新ジャンルで価格も安く、手っ取り早く酔える。


 アサヒとキリンの第3四半期末における差は、販売量換算では約190万ケース。ストロングセブンだけで、アサヒとの差を詰められる計算になるため、首位奪還に向けたキリンの鼻息は荒い。

 一般にビール業界の大型商品は、夏の需要期をにらんで春先に発売されるのが通例。キリンは、10月にストロングセブンだけでなく、9月に新ジャンルで「スムース」も発売しており、異例の新商品攻勢をかけてアサヒを猛追している構図だ。

 思い起こせば、2年前−−06年の第3四半期を終えた時点−−には、キリンはアサヒに265万ケースの差をつけてトップに立っていた。悲願の首位奪還は目前だった。

 そこでアサヒは猛反撃に転じる。10月に新ジャンルの「極旨」、11月に発泡酒の「贅沢日和」を投入、第4四半期に一気に逆転してしまったのだ。いわば「禁じ手」の新商品攻勢、先に仕掛けたのはアサヒだったわけで、今回は立場が正反対になっている。じつに、運命の皮肉というしかない。

 大手マーケティング会社の調査では、コンビニ、スーパー、酒ディスカウンターにおけるシェアは、軒並みキリンがアサヒを15ポイント前後上回っている。

 問題は、調査対象外の料飲店・一般酒店でアサヒがどこまで巻き返すか、だ。ビール比率が圧倒的に高い料飲店、品揃えが上位ブランドに集中する一般酒店は市場の3分の1を占めている。この分野ではアサヒの優位は揺らがない。

 受けて立つアサヒも、これまで弱点だった発泡酒、新ジャンルに今年は「クリアアサヒ」「スタイルフリー」というヒット商品を擁しており、第4四半期はまさしくアサヒとキリンの総力戦。ちなみに、キリンが勝てば8年ぶりの首位奪還となる。

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