素人が極刑を下すのは困難である。

犯罪被害者や遺族が刑事裁判に参加する被害者参加制度が適用された裁判員裁判では、検察官の求刑と比べて判決の懲役年数の割合が8割程度となっていることが読売新聞の集計で分かった。



 被害者参加がなかった場合よりはやや高いものの、顕著な厳罰化の傾向は見られない。裁判員裁判への被害者参加を巡っては、裁判員が被害者の意見に影響されて厳罰化が進むとの懸念もあったが、専門家は「裁判員被告と被害者双方の主張をよく聞き、バランスのとれた判断をしている」と話している。



 2009年に行われた裁判員裁判138件のうち、被害者参加制度が適用されたのは18件で、21人の被告に判決が言い渡された。実刑となった17人の量刑を検察側求刑と比較すると81・7%で、被害者参加がない裁判の平均(77・8%)と約4ポイントの差だった。



 意見陳述の中で被害者側が具体的な量刑を主張したケースは7件。JR東京駅で女性を突き落とした男が殺人未遂罪に問われた東京地裁の裁判では、検察官が、被告は東京・秋葉原の無差別殺傷事件を模倣しており厳しい刑が必要だと指摘して懲役12年を求めた。被害者側も同20年を主張したが、判決は同9年にとどまった。判決後の記者会見で、女性の裁判員経験者は「(検察側が)ことさら秋葉原事件と同種の事件を犯そうとしたと強調するのはどうかと思った」と述べている。



 遺族側が死刑を求めた殺人事件横浜地裁名古屋地裁であり、判決はそれぞれ同19年(検察側求刑・懲役22年)と同17年(検察側求刑・同18年)だった。名古屋地裁の判決後の会見では、男性の裁判員経験者が「被害者は『死刑に』と考えるが、法的な立場に立って考えるとそういうものではない」と語った。



 また、熊本地裁で10月16日に判決があった傷害致死事件では、被告人質問で遺族の姉が「(謝罪に)誠意を感じられず、受け入れられない」と語り、遺族の代理人弁護士も求刑意見で「重い処罰」を求めた。検察側求刑の懲役7年に対し判決は同6年。判決後の会見で女性の裁判員経験者らが、「遺族の話には胸が痛んだが、冷静に判断した」「(遺族の話に)流されてしまうのはどうかと思った」などと量刑への影響を否定した。



 一方、同地裁で12月4日に判決があった強姦(ごうかん)致傷事件では、被害者側の代理人弁護士が求刑意見で「可能な限り長い懲役」を求め、判決では検察側の求刑通り懲役10年になった。これを含め、判決が検察側求刑の9割以上となったケースは4件あった。



 被害者が参加した裁判員裁判の量刑傾向について、諸沢英道・常磐大教授(被害者学)は「裁判員はしっかりと被害者側の声に耳を傾け、その上で法律を考えてバランスのよい判断をしているように見える。量刑への影響は件数が増えないと分からないが、今のところ厳罰化の傾向は表れていない」と指摘している。



 ◆被害者参加制度 2008年12月に導入され、殺人や傷害、危険運転致死傷などの刑事裁判が対象。裁判所が認めれば、被害者や遺族が法廷で、被告や証人に質問することができる。また、検察官の論告とは別に、事実関係や量刑などに関する意見を述べることができる。