揺れ動く心情、秋田連続児童殺害事件で、畠山鈴香被告

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◆揺れ動く心情、秋田連続児童殺害事件で、畠山鈴香被告

「常識で人を殺傷する事は悪い事なのは知っていますが、何故悪い事なのですか?」――。藤里町の連続児童殺害事件で、畠山鈴香被告(35)は、面会を続けている臨床心理士長谷川博一・東海学院大教授(49)にこんな手紙を送っていた。長谷川教授は16日、朝日新聞の取材に応じ、届いた手紙5通の中身を被告の了解のもとで明かした。


 長谷川教授は弁護側の依頼を受け、昨年7月に4日連続で面会し、心理テストなどを施してきた。精神状態が不安定だったため、「いつでも連絡をしていい」と話すと、手紙が届いた。揺れ動く心情をつづっている。


 「先生、私は毎日毎日死にたいのです。子供達が何を苦しい想いをして私に伝え、なぜ今私が生きているのかすら正直考えられないのです」(8月5日)


 「(長女の)彩香や(米山)豪憲君の人生と一緒に私の人生も終わりました。米山さんの気持ちも私には分かりません」「何も分からないのが悔しくてもどかしい」(8月20日)


 「彩香の写真と米山さんの本が見える所に置いてあります。彩香の写真は何ともないのですが、米山さんの本の表紙の豪憲君の写真はとても暗い顔をしていて、ぞう悪の眼で私を見ています。どの角度からもそうです。頭には『なぜ?』と問い掛けてきます」(9月10日)


 「人間も犬や牛、サルと同じ動物です。そして生きる為に他の動植物を殺します。(中略)人間も同じなのに他の動物から傷を負わされたりするとその動物を許さず保健所などが殺します。なぜですか?」「(死は)どれもむごい事だし、家族や友人にとっては悲しい事です。老衰や病気なら良くて事故や事件等相手がいると悪い事なんですか?(中略)どの国も一般常識で人を殺傷する事は悪い事なのは知っていますが、何故悪い事なのですか?」(11月)


 長谷川教授によると、テストの結果、畠山被告の性格は、反射的に場当たり的な嘘(うそ)をつくことはあるが、意識的な嘘はつかない▽迎合性が強い▽他人から示唆された事を信じやすい――という。


 長谷川教授は「不利な表現もあって、手紙が意図的にうそをついているとは思えない。善悪の判断能力が幼稚化している部分は、広汎性発達障害の特徴。心をケアした後で、健忘したという部分の『本当の記憶』の想起という手順を踏まないと、罪と向き合えないし、遺族への本当の謝罪などは出来ないのではないか」と話している。


 「彩香さんは橋の欄干のすき間から川をのぞき、人形を取ろうとして誤って落ちた」――。東海学院大の長谷川博一教授は16日、県庁で記者会見し、畠山鈴香被告が控訴審で「忘れた」としていた記憶の一部を、カウンセリングでこんな趣旨を語ったことを明らかにした。


 畠山被告へのカウンセリングは、本人の同意の下、今月15、16の両日に約1時間ずつ実施したという。覚えている時点までの記憶を一緒にたどり、その後畠山被告が思い出した記憶の断片的な場面をつなぎ合わせていく、イメージ療法を採ったという。


 カウンセリングでは、畠山被告がはじめに「水色」「すきま」「隣にしゃがんでいる彩香」「ピカチュウ」「落ちてった」などと浮かんだイメージを話したという。


 長谷川教授が「どんな」と尋ねると、「両手離した。つかんでたコンクリート」「体半分(出た)」などと答え、「川に落ちたの」と聞くとうなずいたという。途中で、被告は興奮状態になり涙を流し呼吸を荒らげ、面会室の仕切り板に倒れかかったという。


 長谷川教授は「一審までに供述した『彩香が橋の欄干にのぼった』などの内容は、取調官に誘導され、思い込まされた可能性がある。被告が真実と向き合うためにも、カウンセリングをして記憶の喚起を続けていきたい」とした。


 長谷川教授は弁護人の依頼を受け、心理テストなどをして作った「性格鑑定書」を仙台高裁秋田支部に証拠申請したが、昨年12月に不採用になっている。今のところ、今回の結果が公判に反映される見通しはない。Asahi.comより

◆「事故の側面も強い。殺意の有無は被告自身もわからない」などとする精神科医の意見書が証拠採用された。

藤里町の連続児童殺害事件で、殺人と死体遺棄の罪に問われ、一審で無期懲役の判決を受けた畠山鈴香被告(35)の第5回控訴審が19日、仙台高裁秋田支部(竹花俊徳裁判長)であった。長女の彩香さん(当時9)が橋から転落したことについて「事故の側面も強い。殺意の有無は被告自身もわからない」などとする精神科医の意見書が証拠採用された。


 意見書は中島直医師が畠山被告の精神状態について作成した。弁護側は意見書をもとに「被告は発達障害の傾向があり、相手の気持ちを察するのがとても苦手。冷酷だから反省しないのではなく、どう反省したらいいのかわからない」と指摘した。


 彩香さんの転落については、被告の場当たり的性格が強く影響したとし「魚を見たいと状況を作ったのは被害者。転落は事故の側面も強い。殺意があったかどうかは被告自身もわからないのではないか」と説明した。


 畠山被告の供述の変遷については、自身に不利な証言もしていることを根拠に「真の虚言と(自分で)信じ込んでいる虚言があり、(供述には)健忘も虚言もある」。


 これらの内容は前回、検察側が不同意としていた。しかし8日に中島医師の非公開尋問が行われ、検察側が今公判で同意したことで証拠となった。尋問内容は、裁判官から明かされた。


 「願望が影響している」とも言われた畠山被告の健忘は、「無意識的な健忘」とし、「記憶が浮遊しているような状態で、きっかけがないとなかなか思い出せなかった」。米山豪憲君(当時7)の殺害動機は「長女の死で自暴自棄になり、犯行につながった。強い引き金がなくてもそうなる精神状態だったのではないか」と話したという。


 一審での遺族への土下座については「その場での精一杯の反省だったのではないか」とした。


 検察側が1回の面会で意見書を作成した事などについて指摘すると、中島医師は「被告の場合は最低7〜8回はしたいところ。十分な問診期間がなかった」と話したという。検察側は意見書の信用性を争う方針だ。
Asahi.com