仙台市のガス民営化不調の背景とは?

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2010年4月の民営化を目指していた仙台市のガス事業は、東京ガス(東京)、東北電力石油資源開発(東京)が20日、事業継承への応募を辞退したことで振り出しに戻った。620億円の企業債(借金)の一括償還を狙った仙台市と、少しでも譲歩を引き出したかった3社の溝は最後まで埋まらなかった。全国最大規模の公営ガス事業民営化の「破談劇」の背景と、今後の展望を探った。

 3社グループが事業継承への応募断念を決断したのは1月上旬。関係者が打ち明ける。

 「仙台市は昨年12月、市ガス料金の引き上げを見送った。これで状況が変わった」

 仙台市が供給を受けるマレーシアLNG(液化天然ガス)社の提示価格は、エネルギー資源の高騰を受け、予想を超えるペースで上昇。08年8月の時点で、1トン当たりの価格が07年度比で2万円もアップした。

 市ガス料金に原料高騰分を反映させようと、市ガス局は10月以降、料金改定のもとになる原料費調整制度の基準価格引き上げを模索する。

 だが、10月にガス料金を引き上げたばかりで、市役所内部や与党会派市議が反発。結局、市議会12月定例会への条例改正案提出は見送られた。

 3社グループは、この時点での料金見直しは民営化後の経営安定にもつながる「チャンス」になると読んでいた。市との買収契約では、民営化後5年は基本的に料金引き上げができないと条件に盛り込まれていたからだ。「値上げをしていれば事業評価を高く設定できただろう」。3社関係者は振り返る。

 ガス事業の継承者選定で仙台市は、05年の長野県、06年の福井県越前市の公営ガス事業譲渡をモデルに青写真を描いていた。交渉段階から複数の応募企業が激しいつばぜり合いを繰り広げ、それぞれ予定価格を上回る形で譲渡された。

 仙台市も可能な限り応募の間口を広げようと、募集要項でグループによる参加を容認した。

 ところが、この戦略があだとなる。東京ガス東北電力は、石油資源開発を加えたグループでの応募を決定。ガス業界最王手と地元電力会社の「負けない布陣」に、応募に意欲を示していた大手リース会社や外資系金融会社の動きが、ぴたりと止まった。

 ガス事業民営化計画の検討委員長を務めた大住荘四郎・関東学院大教授(公共政策)は「一事業者では行政側は比べる対象がない。応募側はライバルを意識せずじっくり検討できる。競争環境の確保に最大限の努力をすべきだった」と指摘する。

 仙台市は民営化の基本方針は堅持すると強調する。ただ、事業譲渡までには「3年以上の準備が必要」(市ガス局)とみられる。

 民営化が遅れれば、620億円の企業債の償還に、利用者の支払うガス料金が投入され続ける。エネルギー業界の競争激化による経営悪化のリスクにもさらされる。

 民営化に向け、経済産業省出身の交渉力を期待されていた梅原克彦市長は、20日の会見で「(市長の)責任という話にはならない」と話した。河北より