世界的な景気悪化は東北の製造業の雄、NECトーキンも直撃

 世界的な景気悪化は東北の製造業の雄、NECトーキンも直撃した。同社は27日発表の2009年3月期の第三・四半期連結決算で100億円超もの債務超過に陥った。財務基盤強化のため、親会社のNECに対する第三者割当増資などによる完全子会社化の道を選択せざるを得ず、上場廃止に追い込まれる見通しとなった。

 「増資による資本調達をしなければ今後の事業に重大な悪影響が出る」。東京証券取引所での記者会見で岡部政和社長は終始、厳しい表情を見せた。世界的な消費低迷と受注先の在庫調整で売り上げが急減。通期業績予想の赤字幅も大幅に拡大した。

 第三・四半期の工場の稼働率は、前年同期比で3割近くダウン。1月以降は50%減とみて、従業員の一時帰休も始めた。

 岡部社長は「事業基盤強化推進本部を立ち上げた昨年7月にはここまでの事態は想定していなかった」と市況悪化が予想を超えるスピードだったと述べた。今後についても「厳しい環境は続く。09年末までに7、8割の生産ペースに戻ればいいのだが」と厳しい経営環境が当面続くと予想する。

 完全子会社化については「抜本的な意思決定を迅速に行える体制にする。財務が安定し、企業価値が向上する」と強調。国内拠点の統廃合や従業員削減など構造改革を進めることで、固定費200億円の削減を見込む。

 岡部社長は「今後は成長分野へ重点投資し、NECグループの中核企業として貢献したい」と決意も述べた。

 創業の地、仙台市にある本社・工場については「資産価値があるので(売却など)有効活用を検討している」と述べた。前身の東北金属工業は、東北大の研究成果を事業化するために設立された。同大OBで生え抜きの岡部社長は「東北大や地域経済との関係を大切に考えて(売却するかどうかを)判断する」としている。

 一方、NECトーキンの完全子会社化については地元製造業界も深刻に受け止めている。みやぎ工業会の川田正興会長は「NECトーキンは幹部が代々、工業会の会長を担うなど東北の製造業の目標であり、リーダー役だった。上場廃止は残念だ。東京の会社になってしまうのではないか」と話した。

◎岩手事業所閉鎖 従業員180人に衝撃

 NECトーキン岩手事業所(一関市)の閉鎖が決まった地元では27日、従業員や市関係者に動揺が広がった。

 「会社からは何も説明を受けていない。何も言いようがない」と困惑の表情を浮かべたのは、勤務を終えた男性従業員。市労働政策室担当者は「寝耳に水だ」と戸惑う。

 NECトーキン労組岩手支部によると、全従業員180人の正社員の平均年齢は約50歳。大半は一関市が地元で、白石事業所に移るとしても容易ではないとみられる。

 岩手支部の小野寺千秋委員長は「白石事業所に移るかどうかは個人の判断だが、今は新しい職を見つけるのも難しく、会社も簡単に辞められない。まずは会社側の説明を聞きたい」と語った。

 県内の大規模工場の閉鎖は現在の不況下では初めてという。県企業立地推進課の職員は「ショックだ。一度工場が閉鎖されると再開にも時間がかかり、正規雇用への影響も心配される」と不安を募らせた。 河北より