東北大農学研究科{自由に土を掘り返して食べ物を探せる環境で育った豚の肉はおいしくなる}

自由に土を掘り返して食べ物を探せる環境で育った豚の肉はおいしくなる――。東北大農学研究科の佐藤衆介教授(家畜行動学)と県畜産試験場大崎市)が昨年行った放牧実験で、こんな「通説」が実証されつつある。佐藤教授は「家畜にも消費者にも生態系にもやさしい、新しい飼育法を提案したい」と話す。


 養豚場の豚は仲間の耳やしっぽを食いちぎることがある。豚は土を掘って地下茎や地中の虫やミミズを食べるが、コンクリートの床は掘れず、ストレスで異常行動に出るらしい。欧米では「放牧豚は病気になりにくく安全で、肉質も良くなる」という考えが主流になりつつある。


 生育環境と肉質の関係を科学的に検証するため、佐藤教授らは昨年6月から9月にかけ豚の放牧実験を実施した。


 雑草だらけで放置されていた東北大の牧草地(大崎市鳴子温泉)をさくで囲い、15頭の豚を入れた。1頭当たりの面積は100平方メートルで養豚場の数十倍。15頭は敷地内を自由に動き回り、餌小屋の配合飼料のほか、土を掘ってワラビや雑草の根っこを食べた。敷地は1カ月で、人手をかけることもなくほぼ耕された。


 畜産試験場畜舎で育てた15頭と比較したところ、放牧豚の血液には「快感」物質に関連するトリプトファンが多い傾向があった。畜舎は5頭にかまれた傷があったが、放牧豚はまったく無傷だった。


 佐藤教授は「ストレス物質に差は出なかったが、放牧のほうが快適に生活していたと考えられる」という。


 飼育した豚は、あいコープみやぎに出荷。100人の組合員に放牧と畜舎の肉をセットで販売し、肉の色やかおり、硬さなど9項目について比べてもらった。すると放牧豚は香りがよく、スペインの放牧地でドングリを食べて育ち甘い脂身が人気の「イベリコ豚」にそっくりとの評価を得た。


 研究チームはこの味の違いをはっきりさせるために、肉に含まれるアミノ酸脂肪酸の分析を続けている。


 これらの成果は、3月24日午後1時から仙台市青葉区の「エル・パーク仙台」で開く市民公開シンポジウム「安全・安心な食卓は健全な飼い方から」で報告する。無料で、申し込み不要。