ひとめぼれ、高ブランド力悩まし 「おきにいり」退場 /宮城

ひとめぼれ、高ブランド力悩まし 「おきにいり」退場 /宮城
 ◇偏る作付け品種 病冷害リスク高まる恐れ
 県の水稲奨励品種「おきにいり」が、増産の見通しがないとして、08年度限りで指定廃止となることが、主要農作物品種審査会(会長・国分牧衛東北大大学院教授)で了承された。県の奨励品種(うるち米)は全11種になる。県内では全国2位の作付面積を誇る「ひとめぼれ」に人気が集中し、他品種の作付けがなかなか広まらない傾向がある。特定銘柄に偏ると病冷害のリスクが高まるため、県は長粒のインディカ米と交配した新種を開発するなど、他品種の市場開拓を模索している。

 ◇競合米
 おきにいりは84年、盛岡市農水省東北農業試験場(現・東北農業研究センター)で誕生。稲が倒れにくく、冷害や稲にカビが生えるいもち病に強いなどの長所を持つ。県内では96年、輸入米の圧力も受け、ブランド間の競争が激化する中、ササニシキやひとめぼれのような生産・流通の柱となる基幹品種を補完する特定品種に採用された。

 「おいしくて定番として食べ続けたい米」という願いを込めて名付けられ、平野部での栽培が期待されたが、作付面積は99年の278ヘクタールをピークに08年は40ヘクタールに激減。3年連続で100ヘクタール未満となり、奨励品種の基準を満たさなくなった。県農産園芸環境課によると、ひとめぼれとササニシキ系のチヨニシキが交配して作られた「まなむすめ」が97年に採用され、特性が似ているため「競合した」という。

 ◇独り勝ち
 だが、「まなむすめ」も08年の県内の作付面積割合は約4%にとどまる。食味でおきにいりに勝り、ひとめぼれに並ぶ。農薬や化学肥料を減らした環境保全米としても能力が高く、ササニシキ、ひとめぼれに続く「第三の米」と期待され基幹品種になったが、県の作付け目標の10%を大きく下回っているのが現状だ。一方、県古川農業試験場で誕生し、91年から奨励品種となっている「ひとめぼれ」は、県の作付け目標が60%に設定されているにもかかわらず、08年は約84%に達した。

 県は、温度や風といった気候が平野部と異なる山間部や沿岸部では「適地適作」として他品種の栽培を勧めているが、ひとめぼれの人気は圧倒的だ。同課の三上雄史主査は、94年以降に採用された新品種は「味や品質でひとめぼれに劣らない」と語る。だが、まなむすめは大豆からの転作田で栽培されることも多く、食味が落ちがちで、「ひとめぼれと同じ土俵で評価されない」という。

 JA全農みやぎ米穀部の阿部茂調査役は「品質にあまり差がなければネームバリューが強い方に高値がつく。よっぽどのことがないと生産者は新銘柄に替えない」と分析する。ひとめぼれは登場直後の91年秋、「偽米袋」が全国で出回る騒動が起きたため、知名度が飛躍的に向上。93年、ササニシキが主流だった県内は、偏東風「やませ」による冷害が猛威を振るい、作況指数が戦後最悪の「37」を記録する大凶作に見舞われたことから、耐冷性に強いひとめぼれが評価され、一躍トップブランドに躍り出た。

 ◇「宮城に合う米」求めて
 ◇新品種期待
 ひとめぼれに問題がないわけではない。作付面積全国1位のコシヒカリに次ぐブランドに成長したため、逆に「宮城米」としての特色は薄れている。また、いもち病にやや弱く、03年の県内の作況が「69」に落ち込んだ原因になった。

 高温など気象条件によっては品質が落ちることも。ひとめぼれの1等米比率(1月速報値)は08年、本場の宮城が79%で、岩手、秋田、山形、福島の4県は86〜96%だった。三上主査は「宮城に合う米を求めて、地道に品種改良を続ける必要がある」と語る。

 県庁で12日に行われた審査会では、まなむすめとインディカ米「エンガテック」などを交配させた開発中の新品種「東北198号」が注目された。収量性が低いという課題を残すが、粘りが少なく、ピラフやカレーなどの料理に合う。県が消費拡大を進める米粉にも加工しやすいという。

 国分会長は「若い層には需要があるのでは。できるだけ早く仕上げて東北初のインディカ米にして」と期待を示し、県の担当者も「宮城米の特色あるメニューの一つとして売り出したい」と好感触を得た様子だった。

==============

 ■ことば

 ◇水稲奨励品種
 収量や病虫害抵抗性、品質などが既存の奨励品種より優れている場合に県が指定する。栽培上の重大な欠点や作付面積の大幅減、新たな奨励品種によって代替が可能な場合には廃止となる。指定・廃止は、主要農作物品種審査会で検討され、最終的に知事が決める。廃止が決まると、「種もみ」の基となる「原種」が県から提供されなくなる。ササニシキは現在の奨励品種の中で最古参で、63年に採用が決まった。08年は、酒米を含め「うるち米」の指定は12種で、基幹品種と特定品種が6種ずつだった。
毎日より